ユーザー訪問リポート
平成13年2月24日(土)
by くさかべ@北力社
〜北海道清水町、追従型ソーラー発電システム〜
2月に入り、北海道内で酪農業を営む山本さんから電話をいただいた。
「追従型のトラッカーシステムを自分で作った」とのこと。
驚かされたのは、その大きさ。なんと5kWの系統連携システムだと言う。でかい。
自然の力をよく知っている方なので、設計当初より、強風対策システムを付加していたのだが、『上手くいっていない』と言う。
話を聞いてみると、本州の業者に風力センサーなどの電子デバイスを利用した強風対策用の自動システムを特注したものを利用した
らしいのだが、十勝地方の自然の厳しさには通用しなかった、とのこと。なるほど、北海道のような極寒地方ではよくあるハナシ。
かなり入念な寒冷地対策を施された機器でもない限り、マイナス30〜40℃の環境下では、たいがいトラブルが出る。
どこで知ったか(?)、地元北海道で自然エネルギー業者のノースパワーを知り、強風対策システムを構築して欲しい、とのことで連絡
がきたのだ。「北海道の業者なら寒さを良く知っているし、十勝の厳しい自然環境も良く知っているだろう?」とのことなのだが、何しろ、
実物を見てみないことには、何もイメージできない。
春になったら遊びに(?)行こうと思っていたのだが、『いつでもいいけど、いつ来るの?』の催促電話が何度か・・・。
『じゃぁ、2月24日に行きますから。』
・・・というわけで、2月24日に十勝地方へ牛島くんを連れてドライブ。たしか120〜130kmくらいの距離だから、冬路だけど3時間くら
いで着くだろう、などと思って朝9時に出発。札幌を出て、しばらくしたところで案内標識が。
『帯広197km』おいおい、帯広まで、そんなに距離あんの?ぜーんぜん、イメージがズレていた。
『札幌から200kmもあんのか!』同乗者の牛島氏(弊社ススキノ担当社員)は、当たり前でしょ、という顔でこちらを見ている。
遅刻するワケにもいかないし、十勝で豚丼や新得ソバを食べるのを楽しみにしていたので、遅れるわけにはいかないと、冬の峠道を
アホなスピードで飛ばして、きっちり3時間で到着。取材を前に久々にハードな運転で疲れた。
田舎のドライブインで新得ソバを食べて、山本さんの牧場へ。距離は5kmだが3分で着く。
さすが田舎道。どこも高速道路みたい。
牧場に着いたが、北海道の牧場は何しろ敷地が広い。さてさて、山本さんが自分で作ったというトラッカーはどこかな???
じゃーん。これが山本さんご自慢のトラッキングシステム。
道路際にあったものだから、すぐに見つかった。
山本さんに挨拶に行くことも忘れ、写真をパチリパチリ。
さすがにでかい。システムの上には、ウインドシーカーが。
おぉ!よくぞウインドシーカーを選んでくれました。
ウインドシーカー好きの私にとっては、すごく嬉しい。
さっそく、山本さんにご挨拶。会った瞬間に気さくな方だと分かった。
変わったことをやる人に多いヘンクツオヤジでは決してない。
良い感じの人。とにかくハナシ好きな方。身の上話から始まって、
なかなか肝心の追従装置のハナシにならない。
アルバムを見せてもらい、完成当時の綺麗な写真があったので、
パチリと接写。中学3年の息子と二人で作ったのだとか。
終わりそうもない話を切り上げて、さっそく外へ。
写真でしゃがんでいるのが山本さん。立っているのが牛島くん。
「すげぇ。すげー」と連発の牛島氏。
たしかにすごい。個人の自作レベルを超えている。
現在の制御システムは、寒さと強風のために壊れてしまっている
ので、山本さんが手動で操作。
『ウぃーン』と電動モーターウインチが回り、パネルが傾き始めた。
このモーターは、牛の給餌用機械に使われていた廃品モーター。
とにかくどこを探しても新品部品を使っていない。
『あんまり近くから写真を撮らないで。ボロがバレちゃうから。
がっはっは(笑)』とは山本さん。
これが架台土台部分。追従装置なので、ここを軸に水平方向に回
転する。内部にはモーター。これも廃品だとか。小型だけど、ギア
ダウンしているので、これで必要にして十分なパワー。
逆にパワーがありすぎて、トラブル発生時に、巨大な歯車を破壊
してしまったらしい・・・。ウォームギアを使ってギアダウン。
24時間で360度回転するようになっている。
夕方になったら逆回転して戻す、という方法は採用しなかったとの
こと。センサーやタイマーなどはなるべく使いたくない。
ならば、そのまま回し続けちゃえば良い。
ごもっとも。典型的な(?)合理的北海道人。
360度回転するとなると、ソーラー発電の電力を伝達するために
スリップリングが必要。これがないとケーブルが巻きついてしまう。
日下部 : 『これ、スリップリングでしょう?』
山本 : 『スリップリングっつうかさ、うん、まぁ、そう。これも自作
だよ。』
5kWのスリップリングも自作。1極につき、ブラシを3つ使い、ロス
を減らそうと工夫の跡がみられる。
若い頃は、電力関係のお仕事をしていたのだとか。
5kWの電力など『オモチャだよ』と言わんばかり。
撮影のために、上下方向にパネルを動かしてもらった。
すでにお気づきの通り、3段のパネルには、それぞれ異なった角度
が与えられている。追従装置を作るくらいなのだから、発電効率重
視しているはずなのに、なんでこんなことをやるんだろう?と思った
のだが、『こうして違う角度をつけておくと、良いことも色々あるんだ
よ。机上論とは違うんだよねぇ。(笑)』ワケを聞いて納得。
なるほど、なるほど。コンセプトの違い。ここでも合理的な考え方が
貫かれていた。(笑)
山本さんの興味は、『いくら発電して電力を売るか』だけではなく、
『どれだけ実際に役に立つか』なのであった。
ただの金銭的な損得勘定ではない。
これが、最大限にパネルを傾けた状態。
太陽高度の高い夏場だと、これに近い状態になる。
それからもう一つ。
強風時には、このようにパネルを寝かせてファーリングする。
もともと10t程度の風圧に耐えられるように設計してあるのだが、
強風時には、こうしておかないと壊れると言う。
実際に、自動制御装置の故障により、パネルを立てたまま強風を
経験してしまい、本体がダメージを受けたという。
すべての部品が廃品利用。北海道の酪農家さんは、例外なくガラ
クタをたくさん持っている。山本さんも例外ではなかった。
ほとんどのガラクタが、雪に埋まってしまっているが、自動車やバ
イク、各種機械装置のガラクタ部品がたくさん埋まっていることが
確認できた。
息子さんのゆう太くんが、お父さんと二人でレストアしたバイクで、
農場内を走り回っていた。都会では不良扱いされるかもしれない
が、北海道の酪農家ではよく見かける光景。中学生で無免許だが、
敷地内なのでまったく問題はない。
敷地内と言っても、果てしなく広いから十分楽しい。
追従装置のてっぺんにウインドシーカーが象徴的に建てられてい
るが、これは追従装置の電源を確保するためのもの。バッテリー
に充電しているので、いわば独立電源。ウインドシーカー1機の
発電で、この巨大なトラッカーを動かしている。
業者が間違って(気を利かせて)、ウィスパーを納品してきたらし
いのだが、さっさと送り返してしまったのだそうだ。
並べて見比べれば、どっちが良いか素人でも判断できたとか。
北海道の極寒と吹雪の前に、ウィスパーは壊れる。
それを見抜くとはさすが!
こちらは、京セラ製の5kWシステムで、南向きの固定設置。
もともとは、上記のトラッキングシステムに鏡を貼り付けて、このシ
ステムに集光する予定だったのだが、実際にやってみたところ(実
際にやってるのがすごい!)、たしかに出力は増えたという。
ただ、直後にパワーコンディショナーが停止した。
ワケを聞くと、契約電力(60A)以上に発電してしまったため、ブレー
カーが飛んで、パーコンが非常停止してしまったのだとか。
『たくさん発電して、電気を売りまくる予定だったのに、うまく出来
てるんだよなぁ。(でも、それなりに裏技使ってるもんね。:ナイショ)』
と山本さん。
それならば!ということで、サンヨーの5kWのシステムを追加して、
トラッキングシステムに挑戦したのだという。
(京セラは比較用にそのまま残した。)
屋内に設置されたサンヨーのパワーコンディショナー表示部拡大
写真。かなりの曇天だが、1.9kW発電していた。
すでに夕方だったので、ほぼ同出力の京セラ(南向き固定設置)は、
この時1kWも発電していない。朝夕は、かなり差が出るとのこと。
嬉しい結果だ。
このパーコンが設置されているのは、山本さんの作業部屋兼居住
空間。面白いものが数々置いてあり、はっきり言って散らかってい
る。机の上には、バイクのシリンダーが20個ほど。
マキストーブの上には、スターリングエンジンの原理を利用したク
ラシカルな送風ファン。木と金属だらけの部屋に、プラスチック製の
パーコンボックスがやたらと不似合い。
作業部屋の奥は、ゆう太くんの勉強(?)部屋。
なんとサイロを改造した部屋。隣も大きな作業部屋で、ゼッツーなど
の旧式バイクがずらりと並ぶ。
『都会じゃ、こんな古いバイク、人気ないでしょう?』
・・・余計なことは言わないでおいた。
おまけの写真。息子のゆう太くんの除雪作業風景。
トラクターは、アタッチメントを付け替えると、除雪車(ラッセル車)にもブルドーザーにも、パワーショベルにもなる、酪農家さんにとって
は、万能機械。15歳のゆう太くんもハンパじゃなく上手に運転するのだ。
小さな頃から、父親の影響で機械いじりが大好き。ちょっと照れ屋さんなところがあるけど、とっても純粋なハート。
暖かいご家庭でした。
今回の巨大トラッキングシステムのリポート。
酪農家だから出来る、土地が広いから出来る。もちろんそれはその通り。
でも、自然の恵みを大切にし、自然の素晴らしさを知り、かつ自然の怖さ偉大さを知る山本さんならでは、の部分が随所に
見られました。
満喫です。